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【日本】延長された特許権の効力に関する大合議判決

2017年1月20日、知財高裁特別部は延長された特許権の効力に基づく製剤の製造販売等の差止請求について、同請求を棄却する判決を言い渡しました(知財高裁特別部・平成28年(ネ)第10046号事件)。本判決は、特許権の存続期間の延長制度により延長された特許権の効力について、知財高裁が正面から判断したはじめてのケースになります。

特許権の存続期間の延長制度は、医薬品等の製造販売承認等を受けるために特許発明を実施できなかった場合に、浸食された特許期間を5年を限度として延長するという制度です。延長された特許権の効力については、これまでに本事案を含めて少なくとも3件の地裁判決がありますが、延長された特許権の効力を定める特許法第68条の2の解釈については統一された判断基準はありませんでした。本判決により延長された特許権の効力範囲の判断基準が明確化されることになり、医薬品の製造販売に携わる企業はある程度予測性を持って戦略を立てられるようになると思われます。

本判決では、延長登録された特許権の効力は、処分(製造承認)の対象となった物と同一の物のみならず、これと実質同一なものにも及ぶことと、実質同一の範囲の内容が説示され、その上で、被告製品は処分の対象となった物と実質同一なものとはいえないとの判断が示されました。本判決ではまた、被告製品は、延長登録される前の通常の特許発明の技術的範囲にも属していないとの判断が示されました。本判決ではこれ以外に、実質同一の範囲を定める場合に均等論を適用ないし類推適用することができないなどの判断基準も示されています。

本判決は知財高裁特別部によりなされたいわゆる大合議判決であり、今後は、延長された特許権の効力についての統一された判断基準として取り扱われるものと思われます。但し、本件は上告される可能性があり、上告された場合には最高裁の判断を待つ必要があります。

参考情報:

知財高等裁判所HP(大合議事件のページ):http://www.ip.courts.go.jp/hanrei/g_panel/index.html 

<追記1/31>本大合議判決についての解説・コメントはこちらのブログページ「延長された特許権の効力に関する大合議判決(その1)」をご覧下さい。

(記事担当:横田修孝)

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